食事療法
2022.06.13
妊娠糖尿病の食事療法|外食のときに気をつけるポイントや食べ方の工夫を説明
- もくじ
妊娠糖尿病とは
血糖値は、すい臓から分泌されるインスリンによって一定になるようコントロールされています。しかし、妊娠すると胎盤から分泌されるホルモンの影響により、インスリンの効きが悪くなります。これを「インスリン抵抗性」といい、妊娠の週数が進むにつれて強くなることが特徴です。その結果、糖代謝異常がみられるようになり、血糖値のコントロールができなくなるため糖尿病を発症する場合があるのです。
妊娠糖尿病が及ぼすママと赤ちゃんへの影響
妊娠糖尿病は、自覚症状がほとんどありません。症状が出ても尿の回数増加や喉が渇くといった程度のため、気づきにくいのが特徴です。妊娠糖尿病で1番怖いのは、それによって引き起こされる合併症です。さらに妊娠糖尿病と診断されると、母子ともに将来的に糖尿病を発症する可能性が高くなります。
母体の合併症
- 流産・早産
- 羊水過多症
- 妊娠高血圧症候群
- 巨大児に基づく難産
- 糖尿病合併症(腎症・神経症・網膜症)
- 低血糖など
胎児及び新生児の合併症
- 胎児仮死・胎児死亡
- 先天異常
- 巨大児
- 胎児発育不全
- 新生児高ビリルビン血症(黄疸)
- 新生児低血糖症
- 新生児多血症など
出典:国立国際医療研究センター「糖尿病診療ガイドライン2019」
診断基準
妊娠糖尿病の診断基準は、以下のとおりです。
※75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)において、次の基準の1点以上を満たした場合
- 空腹時血糖値≧92mg/dl
- 1時間値≧180mg/dl
- 2時間値≧153mg/dl
出典:国立国際医療研究センター「糖尿病診療ガイドライン2019」
妊娠糖尿病になりやすい人
妊娠糖尿病になりやすい人は、以下の因子を持つ人です。妊娠すると検診時に妊娠糖尿病スクリーニングを受ける必要がありますが、これらの因子がある人は特に気を付けましょう。
- 糖尿病の家族歴
- 肥満
- 35歳以上の高齢期
- 巨大児分娩既往
- 原因不明の習慣流早産歴
- 原因不明の周産期死亡歴
- 先天奇形児の分娩歴
- 強度の尿糖陽性または2回以上反復する尿糖陽性
- 妊娠高血圧症候群
- 羊水過多症
妊娠糖尿病の治療方法
妊娠糖尿病の治療の基本は、体重管理と血糖値が上がりすぎない食事管理です。
妊娠中の体重管理
妊娠中の適正体重増加量は、以下のとおりです。
BMI | 体重増加 |
BMI<18.5 | 9~12kg |
18.5≦BMI<25 | 7~12kg |
25≦BMI | 個別対応(およそ5kgを目安) |
BMI=体重(kg)÷身長(m)×身長(m)
出典:日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2019」
妊娠中の食事と血糖コントロール
妊娠糖尿病を発症したら、安全に出産を迎えるためにも血糖を正常に保つことが大切です。母体の血糖が高くなると、胎盤を通して胎児に過剰な栄養が供給されてしまいます。その結果、胎児が巨大児となり難産につながる可能性や、母体だけでなく胎児にも影響が出ることもあります。
血糖コントロール目標値
空腹時血糖値 | 95mg/dl未満 |
食後血糖値 | 食後1時間値140mg/dl未満または食後2時間値120mg/dl未満 |
HbA1c | 6.0%~6.5%未満 |
出典:日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2019」
運動療法
妊娠糖尿病には、適度な運動も効果的です。運動療法は基礎代謝の向上や体重の増加予防だけでなく、ストレス発散にもなります。しかし、状況によっては運動をしてはいけない場合もあるので、運動をする場合は必ず主治医の許可を得てから行いましょう。運動内容はウォーキングなどの有酸素運動を1回30分~1時間程度、週に3回程度行うのがおすすめです。
運動療法の効果
- 基礎代謝を向上させる
- インスリンの効き目があがる(インスリン抵抗性が低くなる)
- 体重の増加を予防する
- 筋力や持久力などの体力が向上する
- 肩こりや腰痛の改善
- 気分転換、ストレスの解消につながる
妊娠糖尿病の食事療法のポイント
1日に必要な摂取カロリー
妊娠中の1日あたりの摂取エネルギー量は、標準体重(kg)×30kcalが基本となります。そこに週数ごとの付加量が追加されますが、BMI25以上の妊婦さんは摂取エネルギーを制限する必要があるため、週数に関係なく付加量はありません。標準体重(kg)は身長(m)×身長(m)×22で求められます。
週数 | 1日の摂取エネルギー量(
基本) |
付加量 |
BMI25以上の妊婦(週数に関係なし) | 標準体重(kg)×30kcal | なし |
~13週(妊娠初期) | 標準体重(kg)×30kcal | +50kcal |
14~27週(妊娠中期) | 標準体重(kg)×30kcal | +250kcal
|
28週~(妊娠後期) | 標準体重(kg)×30kcal | +450kcal |
出典:国立国際医療研究センター糖尿病情報センター「妊娠と糖尿病」
1日3食バランスよく摂取する
食事の基本は、1日3回バランスよく摂取することです。食事の間隔が長いと空腹でいる時間も長くなるため、次の食事で必要以上に栄養を吸収してしまいます。その結果、急激な血糖値上昇を招く危険があるのです。また、食事の間隔が短いと血糖値が下がりきらないうちに次の食事を取ることになり、血糖値が高いままになります。食事の時間は少なくても2時間は空けるように意識しましょう。
分食にして血糖をコントロールする
食後の血糖値が高値になる場合は、分食がおすすめです。1日3回の食事を、朝食、10時(間食)、昼食、15時(間食)、夕食と5回から6回に分けます。1日の総摂取カロリーがオーバーしないように気を付けながら、少量ずつ食べるように工夫しましょう。間食は不足しがちな乳製品やビタミン、ミネラルが多く含まれているフルーツを摂取することもおすすめです。日々の食事内容を記録する習慣をつけると、よりコントロールがしやすくなります。
質のよい食事を摂り栄養の過不足に注意する
主食・主菜・副菜の3点をそろえたバランスのよい食事を意識しましょう。この3点に乳製品や果物を適量取り入れると、自然とバランスが整います。また、妊娠高血圧症候群予防のためにも、食塩の量は1日6.5g未満になるよう減塩を心掛けましょう。
主食:ご飯、麺類、パンなどの炭水化物
主菜:肉、魚、卵、大豆製品などのタンパク質
副菜:野菜、海藻類、きのこ類などのビタミンやミネラル、食物繊維
間食の選び方
妊娠糖尿病だからといって、おやつを我慢する必要はありません。おやつは気分をリフレッシュさせる効果もあり、心に潤いを与えてくれます。以下の点に注意し、おやつを楽しみましょう。
カロリーの摂りすぎに注意
目安は1日の総エネルギー量を超えないよう、1回あたり100kcal以下です。おやつを選ぶ際は、カロリーの摂りすぎに注意しましょう。
おすすめのおやつ
牛乳やヨーグルトなどの乳製品や、フルーツなどがおすすめです。不足しがちなカルシウムやビタミン、ミネラルを補給できます。また、アーモンドなどのナッツ類も糖質が低く、血糖値を上げにくい食材なのでおすすめです。
外食をする際のポイントとおすすめメニュー
妊娠糖尿病と診断されると食事療法をする必要がありますが、食べ方やメニュー選びを工夫すれば、外食も可能です。ここでは、そのポイントについて解説します。
定食メニューを選ぶ
定食メニューは主食・主菜・副菜の3点がそろうので、単品メニューを選ぶよりも自然と栄養のバランスが整います。外食をするときは、定食メニューを選ぶようにしましょう。
食物繊維が多いメニューを選ぶ
野菜に多く含まれる食物繊維は糖質の吸収を緩やかにし、血糖値の急上昇を抑える働きがあるため、妊娠糖尿病に効果的です。また、ビタミンやミネラルも豊富に含まれているため、妊娠糖尿病に関わらず妊娠中は積極的に摂りましょう。野菜を使ったメニューがないときや少ないと感じる場合は、サラダを組み合わせるとよいでしょう。
ご飯の量は少なめにする
炭水化物は血糖値を上げる作用があるため、必要以上に摂ると血糖値が上がりすぎてしまいます。しかし、極端な制限をすると必要な栄養が不足してしまうので危険です。1日の総摂取カロリーのうち、50~60%は炭水化物から摂るように意識しましょう。
食べ方を工夫する
食べる順番や食べ方を工夫するだけでも、血糖値の急上昇を防げます。妊娠糖尿病に効果的な、血糖値の上昇を緩やかにする食べ方を紹介します。
ベジファーストで食べる
野菜から先に食べる「ベジファースト」を取り入れ、次に主菜のタンパク質、最後に主食の炭水化物の順に食べましょう。野菜に含まれている食物繊維が、血糖値の上昇を緩やかにしてくれます。
しっかりと噛んでゆっくり食べる
早食いは消化吸収のスピードが上がるため、血糖値を急激に上昇させてしまいます。また、食事のなかの1皿は歯ごたえがある食材を使用したメニューを選びましょう。歯ごたえのある食材を選ぶと、自然と噛む回数が増えます。さらに、噛むことで満腹中枢が刺激されるため食べすぎの予防にもつながり、満足感も高まります。
GI値が低い食材を使ったメニューを選ぶ
GI値(Glycemic Index)とは、食後血糖値の上がりやすさを示す指標です。食品に含まれている糖質が体内で吸収される際の度合いを間接的に示し、食品摂取2時間までの血糖値を計測したものです。シドニー大学(オーストラリア在)によると、GI値70以上の食品を高GI食品、GI値56~69の食品を中GI食品、GI値55以下の食品を低GI食品と定義されます。
低GI食品一覧(GI値50未満)
穀類・麺類・パン | さつまいも(55)、玄米(55)、ライムギパン(55)、オールブランシリアル(45)、玄米粥(47)、春雨(26) |
肉類・魚介類 | あさり(40)、えび(40)、まぐろ(40)、ほたて(42)、イクラ(40)、たらこ(40)、牛肉・鶏肉・豚肉(45~49) |
乳製品 | プレーンヨーグルト(25)、牛乳(25)、低脂肪乳(30)、バター(30)、スキムミルク(31)、チーズ(35) |
卵 | 卵(30) |
野菜類 | トマト(30)、小松菜(23)、ほうれん草(15)、もやし(22)、レタス(23)、きゅうり(23) |
果物 | りんご(39)、グレープフルーツ(31)、オレンジ(31)、いちご(29)、あんず(29)、アボカド(27)、パパイヤ(25) |
種実類・大豆類 | 大豆(30)、ピスタチオ(23)、アーモンド(25)、ピーナッツ(20) |
海藻類 | ひじき(19)、昆布(17)、寒天(12)、青のり(16)、ところてん(11) |
外食をした日は1日のなかでバランスを整える
外食などでバランスの偏ったメニューを食べた場合は、その日のなかでエネルギー量や不足している食材のバランスを整えるとよいです。ご飯の量が多くて野菜が少ないメニューを食べた場合、次の食事では野菜中心のメニューを選ぶとよいでしょう。ご飯の量は少なめにして、バランスを整えてください。
出産後の注意点
妊娠糖尿病と診断された人でも、出産後には血糖値が正常に戻ることが多いです。しかし、産後正常値に戻った人を対象とした研究によると、その約半数が20~30年後には糖尿病となったと報告されています。将来、糖尿病にならないためにも、出産後は以下の点に注意しましょう。
食生活に気を付ける
暴飲暴食を避け、バランスの整った食事を取りましょう。また、ベジファーストを意識しながら、糖質の低い食品や低GI食品を上手に組み合わせた食事内容が理想です。体重管理は、理想体重を目標に行いましょう。
定期的に検査をする
妊娠糖尿病だった人は、産後に血糖値が正常値に戻っても将来的に糖尿病へ移行しやすいため、定期的な検査が大切です。産後1~3ヶ月後に「75g経口ブドウ糖負荷試験」を行い、血糖値が正常に戻っているか確認しましょう。正常値に戻っていても1年に1回は定期的に検査し、糖尿病へ移行しないように注意してください。
糖尿病にならないための、出産後の予防ポイント
- 内科での定期検査を受ける
- 健康維持を目標とし、食事・運動療法は継続する
- 標準体重(理想体重)を目標に管理する
理想体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22(BMI標準)
糖尿病予防ができるお弁当
管理栄養士が監修したバランス健康食や、塩分・エネルギーコントロール食などを取り扱っているジョイントのお弁当は手軽に糖尿病を予防できます。
冷凍のお弁当なのでレンジで温めるだけで食べられる点や、メニュー数が豊富な点が魅力。
妊娠糖尿病の基本は食事療法!正しい知識で健康的なマタニティライフを
妊娠糖尿病は、食事療法と血糖コントロールが基本です。食事をする際のポイントをしっかりと理解することで、外食も楽しめます。妊娠中はお母さんだけでなく胎児への影響も大きいので、正しい知識で適切な管理を行い、健康的なマタニティライフを送りましょう。
管理栄養士馬塲 耕造
1950年生まれ。国立循環器病研究センター 栄養管理室長、大阪刀根山医療センター 栄養管理室長、関西福祉科学大学 福祉栄養学科 客員教授。現在、優れた知見をもとに当社商品の監修と管理栄養士の指導を行い、お客様の栄養相談も行っている。